千葉県船橋市の空き家問題を解決するNPO法人

専門家が解決にあたります!

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理事長 谷本直久

「不動産屋に行ったんだけど、断られたんだ…」

わたしが、日頃から仕事でお付き合いのある仲間とこの団体を立ち上げたのは、この言葉がきっかけでした。
わたしは、現在でも行政書士として働いており、相続や遺言業務を得意としています。
そのため、依頼者が会ったこともない法定相続人を探して、その方に書類をお送りして協力を求める作業には慣れていました。

そんな折、ある依頼者からこんな相談を受けました。
「今度、昔に相続した土地を売りたいんだけど、隣の敷地の持ち主と連絡が取れなくって、境界確認が進まないんだよ。不動産屋からは、これが決まらないと買えないと言われてしまってね」。
その方は、今後の生活資金確保のために、どうしてもその土地を売却せざるを得ない困った状況にありました。

ちなみに、なぜ不動産屋が二の足を踏んでいたのかと言いますと、隣の敷地の登記上の所有者はすでに亡くなっており、現在の所有者の名前や住所が分からなかったからです。

このようなケースの場合、行政書士など、特定の国家資格者には、法律上正当な理由があれば戸籍や住民票を職権で調査することで、本当の所有者を探し出すことができます。
それで、わたしの知り合いの土地家屋調査士と協力し、その隣の敷地所有者を探し当て、手紙を出して協力を依頼しました。

ところが、何度出しても返事はありませんでした。「もしかして協力したくない腹づもりなのかも…」と考え、思い切って訪問してみました。
すると、意外にもご本人に会え、すんなりと必要書類に署名捺印をしてくださいました。ご本人の「手紙が来ていたのは知っていたが、忙しくてね」という、申し訳なさそうな面持ちがとても印象的ではありましたが。

法律専門家集団の結成!

わたしはこの経験から、その当時から注目していた「空き家問題」も、こんなことが解決の妨げになっているのでは? と思い、仕事でよく会う行政書士や司法書士と意見交換を行ないました。

すると、彼らは異口同音に、自分も常々そう感じたていたことを話してくれました。
「自分たちのスキルを活用すれば、空き家問題の解決をサポートできるかも」と話が盛り上っていきました。もちろん、いずれは自分たちの本業にも関わってくるかもしれないという、淡い期待も抱きながら。

それで、法律専門家でなければできないことを考え始めました。隣地の方とのトラブルがあれば弁護士、登記の問題なら司法書士、境界が未確定であれば測量士、売却や賃貸となって収益が発生したら税理士、建物の強度や見立ては建築士など、どんな業種の方に協力してもらえればよいかをです。

次第に、わたしは普段からお世話になっている仲間を集めれば、空き家に悩んでいる方からのどんな質問にも答えられる集団ができるかもと、構想が湧いてくるようになりました。いわゆる、空き家問題のワンストップサービスができる集団です。

このコンセプトを元に、方々に声をかけたところ、全員が喜んで協力したいと参画を承諾してくださいました。弁護士・司法書士・行政書士・税理士・測量士に加え、社労士や公認会計士までが勢揃いするラインナップです。空き家特措法施行前年の2013年夏のことでした。

NPO法人でないと活動できない?

「これでいける」と踏んだ矢先、1つの壁にぶち当たりました。それは、この集団の団体化です。これが1つのチームとして運営されていることを世間に認知してもらうほうが活動しやすいため、これはどうしても必要なことでした。

例えば、この集団で株式会社を立ち上げたとします。すると、赤字でも法人税が課税されますし、給料の支払いがない会社はありませんので、どうしても利潤を追及せざるを得なくなります。そうなると、一定のノルマのようのものを意識するようになります。

また、メンバーそれぞれが本業を持っていますので、それを相当程度削ってまで、こちらに注力してもらうこともできません。また、空き家に悩んでいる方からの相談や調査でお金を取る発想はもともとなかったので、ここからの儲けを当てにしてもらうこともできません。

そこで考えたのがNPO法人です。NPOは、スタッフ(正会員)に給料を払うこともできますが、無報酬でも運営できます。また収益事業を行なっていなければ法人税は課税されませんし、市県民税については、赤字の場合は地方自治体が減免措置を取ってくれます。

参画してくれた行政書士が、幸いにもNPO法人の設立に詳しく、「このスタイルなら、皆が生業とバランスを取りつつ、本業で培ったスキルを活かして運営できる」と後押ししてくれました。その一言に励まされ、無事2013年秋に設立の運びとなりました。

地方自治体との協力がカギ

まずはわたしの事務所のある船橋で、具体的な実態調査を行うことにしました。空き家で悩んでいる方が相談に行く市役所の担当課を教えてもらい、訪問してみました。そこは「市民安全推進課防犯係」というところでした。そこで、どんな相談例があるかを聞かせてもらえればと思いました。

幸いなことに、いろいろな問題をお聞きできました。まだ空き家特措法が施行される前でしたから、このような団体が来るのが珍しかったこともあったようです。市役所の方も、少ないメンバーで本当に熱心に取り組んでおられました。しかし、お役所にも難問があることが分かりました。それは、お金と専門性の問題でした。

大抵の場合、空き家所有者は、「売却したら、あるいは解体したらいくらかかるのか」というのを知りたがります。その目安が分かれば、その後の行動の計画が立てやすいからです。しかし、自治体である以上、具体的な金額を言う訳にもいかず、せいぜい信頼できる業者の団体を紹介するくらいしかできなかったようです。

また、境界や再建築不可の問題などは、担当課が異なりますから、すぐには回答できません。ましてや、相続問題や訴訟となりますと、市役所の方でもほとんど素人といっても過言ではありませんでした。

それを、法律のプロとはいえ民間団体がサポートする、それも相談は無料でできます、ということでお訪ねしたものですから、担当者の方々が興味を持ってくださったのも至極当然の成り行きだったようです。何回かの打ち合わせを経た後、2014年1月から2016年3月まで、「市民協働モデル事業」として、空き家問題解決のコーディネートをさせていただくことになりました。

振り返ってみて

この提携期間中に、空き家に悩んでいる多くの方々の相談を受けました。ほとんどの方が言われていたのが、「不動産屋に行ったんだけど、断られてね」という言葉でした。そのセリフを聞くたびに、逆に闘志が湧いてきました。実際に解決まで物事が進み、空き家所有者や空き家の近所の方々から感謝される度に、この団体を立ち上げて良かったと感じています。

船橋市との提携は終了しましたが、その後も、ホームページを見たという相談者からの依頼を受け、活動を続けています。また、おかげさまで、2016年には埼玉県に、2017年には茨城県に、2018年には東京都と神奈川県と大阪府に、2019年には岐阜県に、2020年には群馬県に、2021年には奈良県に支部を設立することができました。どちらも、船橋で成功した「地方自治体との協力」というスタイルから、空き家問題解決へとサポートさせていただいています。

振り返ってみると、あくまでもわたしたちの場合ですが、以下の要素が奏功したようです。
①メンバー一人一人が生業を持っているので、あえて利潤を追求しなくてもよい。(正式な業務として依頼されるまでは手弁当で活動しています)
②不動産業者ではないので、あせらずゆっくりと考えることができ、いろいろなお悩みに対応しやすい。(庭の草刈りなどもやっています)
③法律のプロがいるため、空き家所有者だけでなく、空き家に迷惑している近所の人や町会の相談にも対応できる。(町会様から、役員会で空き家問題対策について話をするよう依頼されたことがあります)
④想定しうる大抵の問題について、自分たちのグループ内で回答を導き出すことができる。(市役所から、レアケースの対応について相談されることがあります)

これからも、立ち上げ当初に仲間たちと話した、「街から空き家を1軒でもなくしたいね」という素直な気持ち基づいた理念にそって、自分たちのスキルを通じた社会貢献ができたらと考えています。

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